「あなたは職場に向いていない、感情がすぐ顔に出ているもの。」

「あなたは職場に向いていない、感情がすぐ顔に出ているもの。」

十年前、勤めていた会社の上司と喧嘩して、勢いで会社を辞めた時に友達がそう言ってくれた。
「お前のような中国人は見たことがない。」「あなたのような韓国人も、私は初めて見ました。」上司相手に一歩も引かない私は、すぐ感情的になってしまうのが玉に瑕だ。

新卒してすぐ入った職場の部長を含めてどうやら私は上司には恵まれないらしい。
「そんなことは自分で判断してやりな。細かいことにまでいちいち気を配れるほど部長は暇じゃないぞ。」
......
「何で報告しなかった?」「このような些細なことは自分で判断しろと前に部長に言われまして......」「じゃ、お前は俺が死ねと言えば死ぬのか」
その時の部長のふてぶてしい顔を今でもありありと思い出せる。

今は、在宅勤務しているけど、その社長がまた奇抜な性格の持ち主で、せっかくプライベートの時間を割いてまでいろいろ情報を集めてきたのに、「出過ぎた真似はするな。」「言われたことだけをやりなさい。何でどいつもこいつも言うことを聞かないのかなぁ」と呆れたような口ぶりで言われる始末。
アルバイトで残業代も払ってくれないくせに、勤務時間外に仕事のやり方を教えてやると、その恩着せがましい言い草にも流石に絶句したものだった。もちろん、それは勘弁してほしいときっぱり断わってやった。
分からないことがあったら素直に聞きなさいとか言っておきながら、抜け漏れがないよう再確認を求めると、仕事を始めて日が浅い(十日目)私に、一度教えたことはちゃんと覚えなさい、もっと完璧にやってくれないかなぁと無茶を言う。「自分は最善を尽くしたつもりなんですけど、社長の期待に沿えなかったということは、やはり自分の能力不足が原因かと」つい皮肉めいて言い返してやったのだ。

私の履歴書を見て、結構職場を転々としているわねという人も少ながらずいる。本当は変化を好まない性分なのにだ。
辞めた後は後悔しないようにしているし、引きずったこともなかった。ただ、昨年辞めた日系会社のことは今でも残念に思えてならない。給料が惜しかったからではない。むしろ世間の相場に比べて低い方だった。ただ単に、日本語が大好きだったため、せっかく手に入った通訳の仕事が楽しかったからだ。会社側に給料の相談を持ち掛けた時、自分のことを高く評価し、引き留めてくれたことは本当に嬉しかった。結果はどうであれ、働き続けようと思った。それがどういうわけか、向こう側の態度が最後の最後で一変した。「給料は少し上げてやる」「己惚れるな」「地に足をつけるように働け」。手のひら返しのような態度に面食らい、やり切れない気持ちに駆られ、つい辞めてしまった。

己の本当の気持ちを押し殺してまでやり続けるべきだったのか、それともちっぽけなプライドを守って「格好よく」辞めたのが正解だったのか、正直分からない。
年のこともあってか、日本語関連仕事に執着して履歴書を出しても相手にされないことが多く、面接の機会なんて指で数えられるほど少ない去る一年間。日本語に関する仕事を見つかるのはもう無理かもしれないと思うと、自分の生き方に拘ってきたことに動揺が生じはじめた。

職場に向いていないと言ってくれた友達の言い分にも一理あるかもしれない。
相手との関係が壊れることを恐れて、その人の気持ちを害したくないがために、無理に合わせようとしない、妥協しない、我慢することなくきっぱり断わる。そういった自分の性格にも関係しているように思えなくもない。

年を取るにつれ、だいぶ落ち着いてはいるものの、40になった今でも後先考えずに行動する自分に呆れる一方で、人に選ばれざるを得ない自分が情けないし、悔しい。