無断駐車車両を川に落とす「勇者」

自分の駐車スペースに見知らぬ車が止まっているって話、よく聞くよね。

林さんもその被害者の一人で、相手車の所有者に連絡して撤去をお願いしたが、連絡してから29時間経っても、相手は一向に姿を現れなかった。最初は風邪を引いているとか言い訳ぐらい作って見せたものの、そのうち電話にも出なくなり、とうとう姿をくらましたことに、林さんは激怒し、「人の駐車場に勝手に止めといて、撤去しろと言っても聞かないし、川に落としてやる」「オンボロ車ぐらい弁償できる」などと言いふらし、フォークリフトを呼んだ。てっきり口先だけかと思いきや、その場でフォークリフトの運転手に指示して車を川に投げ落としたそうだ。

車は翌日に引き上げられたが、ほぼ全体が水に浸かっていて、長時間の水没で廃車処分になりそうな状態だったらしい。姿をくらましていた持ち主はやっと現れ、自分の車が川に投げられているのを見るなり、すぐ警察に通報した。

林さんは「オンボロ車ぐらい弁償できる」などと豪語したが、単に賠償するだけで済む話ではない。器物損害行為は、損害賠償義務を負わされるのはもちろんのこと、その数・額によっては有期懲役にもなりかねない。

林さんは他人の器物を損害した罪で警察に連れ去られ、林さんから依頼を受けて車を川に投げたフォークリフトの運転手も取り調べに呼び出され、相応の罰を受けることになるらしい。

この事件はネット上で大騒ぎを起こし、林さんは「現地一番やばい車主」と囃し立てられた。林さんのやり方に対する意見は二手に分かれ、片方は、火種を作ったのは無断駐車行為であるものの、人の車を川に落とすのは妥当でないと、極端すぎると主張し、もう一方は、「よく投げてくれた!」「せいせいした」「ひどい奴め、ざまあみろだ」などと林さんを支持し快哉を叫んだ。林さんの行為は多くの人がやりたくてやれなかったことだからなのか、後者の方が明らかに大半を占めていた。

実際、多くの人が似たような場面に出くわし、気がふさぐような不快な思いをさせられている。

ある駐車場の所有者は、よく自分の駐車スペースに止まっている車に掛け軸をかけた。その掛け軸には「お前の目は節穴か」という文字が書かれていて、その一言にどれだけの不満と怒りが込められたものか。

せっかく金を払って駐車場を買い取ったのに場所を乗っ取られ自分の車は止められなくなった。腹を立てない人などいないだろう。

厚顔無恥の生きた見本は他にもある。アウディの車が地下の駐車場に2年間も埃を被ったまま止まっていたって話だ。

そのアウディの所有者は人の駐車スペースを占拠しておきながら、ふてぶてしくも、「俺をどうこうできるものならやってみろ」と駐車場の持ち主に電話で言い放ったそうだ。一方、その駐車場の持ち主もなかなかの癇癪持ちのようで、大きい錠を買ってきてはアウディをそのままロックして固定させたという。彼曰く「誰が先に頭を下げるのか、見てみようじゃないか」。そしてこの膠着状態は2年も続いた。その間、二人はずっと話し合い続けたものの、合意に達することはできなかったようだ。お互い一歩も譲らなかった結果、アウディは二度と地下駐車場から出されることなく埃まみれになり、もう片方は、また金を払って別のスペースを借りて駐車する始末。2年間意地を張って共倒れという結末になったのだ。

最初の林さんもそうだけど、腹が立って相手に目にもの見せたい気持ちは分からなくはないが、感情的になると、正常な判断力を失ってしまう。

現に、林さんと例の駐車場の持ち主は、一時の感情に流されて鬱憤を晴らした結果、みずから面倒ごとを引きつけてしまい、元々有利な立場にあったものを、過剰に反応し、極端な行動に走ったせいで、返って不利になってしまったのだ。

もっと冷静かつ有効的な解決策で自分の権益を守るべきだ。不適切な手段を取ると、一時の憂さ晴らしはできても、相手を戒めるところか、自分が苦汁を嘗めさせられることになる。
だったら、どうすればいいのか。

去年5月にも駐車スペースを巡るトラブルが発生したが、その持ち主であるレイはちゃんと法的手段で自分の権益を守って見せた。レイは、自分の駐車スペースがしょっちゅう占拠されていることに気づくと、まず管理会社を通して無断駐車した車の持ち主のヘイに連絡して事情を話した。そして、「一時間ごと占有料50元」と書き入れた警告の文書をその車に張った。しかし、それを見たヘイはあろうことか、屑などという侮辱めいた言葉が書かれた張り紙をレイの車に張ったのだ。その一連の行動が監視カメラにぱっちり記録されていることにも気づかずにだ。レイはその証拠を元にヘイと管理会社を裁判に持ち掛けた。調停により、ヘイはレイに謝罪し、管理会社も駐車場への管理を強化すると約束した。駐車場の監視システムを更新し、今後このようなクレームを受けた際には即時対応すると約束するとともに、レイの駐車料金を減免してやると言い出した。

痛快な結末であり、大いに留飲が下がる思いだ。

ただ、王に対する罰が軽すぎる。謝って済むなんて本人にとっては痛くも痒くもないはずだ。なにより、人の場所を乗っ取ってなお、逆切れするそのふてぶてしさ、謝罪も本心からではないだろう。

法的手段で相手を罰し、自分の適法な権益を守る。得策ではあるが、手間暇がかかりすぎて、多くの人がややこしくてそこまでしようと思わない。

一番有効的な解決策は、関連機関がもっと十全かつ強硬な措置を講じることだ。

国によって異なる点もあるだろうが、まず車の持ち主を特定し、持ち主の特定ができたら駐車場の明け渡し請求を行う。そして持ち主から回答がなかったり相手との交渉がうまく行かなかった場合、管理会社や警察に介入してもらうか民事訴訟に持ち込むというのが一般的なやり方だろう。

しかし、時間はかかるし、すぐ駐車できない焦燥感に駆られるのはもちろんのこと、運悪く筋の悪い悪質な無断駐車にでも出くわしたら交渉が長引いてその間受ける精神的ストレスも半場ではない。さらに張り紙で警告したはいいが、自動車に傷やテープ痕を残したらそれを逆手に文句を付けてくるなど、対処方法を誤ったら返って不法行為を問われ不利になりかねない。一方無断駐車した側は、どう転んでも損はない。知らぬ存ぜぬを通し、用が済んだら車を移動するだけでいい。最悪の場合、裁判に持ち込まれたとしても、損害賠償を追求されるわけでもないから痛痒を感じない。

他人の利益を侵害しても罰せられない。無料駐車もできて謝って済むからお得。だから少しだけと思い平気で無断駐車する人が後を絶たないのだ。

台北では、駐車スペースが他人に占拠されたり、あるいは違法駐車されたりする場合、すぐ業者に連絡して車両の撤去を委託することができるらしい。車はレッカーで指定の保管場所に移動され、引き取る際には、車の撤去費用と保管費用を払わされる。

少々乱暴ではあるが、有効的なやり方だ。無断駐車しようとする輩は二の足を踏まざるを得ないし、被害に遭われたとしても、相手の態度に振り回されることなく電話一本で済ませられる。

このような経験はちゃんと活かしてほしい。不埒な行為は根元から断ち切らなければならない。

そもそも、これほど被害が出ているのに、もっと有効的な対策を練ろうとしないのが不思議だ。民の安心・安全な暮らしを守り抜くのが政府最大の責務だろうが。大事件には手も足も出ない。このような些細な事件はたらいまわしをするばかりで、動こうとしない。

ペーパードライバー歴十年の私は、生涯ペーパードライバーを貫くと改めて決心する。